research
疎水性相互作用・静電相互作用・水素結合などの非共有結合を介して分子が組織化してつくる集合体を超分子と呼びます。超分子は分子単独とは異なる新しい機能を発現するという面白い特性を示します。性質の異なる種々のアミノ酸をビルディングブロックとして自由な分子設計ができるペプチドは、ナノメートルサイズの制御された構造をもつ超分子集合体を創り出す分子素子として非常に魅力的です。 私たちはこれまでに、アミノ酸をさまざまに組み合わせることで、ナノメートルサイズのファイバー・テープ・リボン・チューブなどの多様な超分子ナノ構造体を創り出すことに成功しています。 また、ナノ構造中に蛍光色素や金属イオンを集積化する超分子ペプチドの開発と光学材料や触媒として機能するナノマテリアルへの応用も行っています。
ペプチドは水との親和性が高いので、水中で超分子集合体を形成するペプチドを設計することができます。 私たちはこれまでに、水中で均一なサイズのナノファイバーを形成する超分子ペプチドを設計・合成し、水をかためてヒドロゲル(ペプチドゲル)を創ることに成功しています。ペプチドゲルは細胞に対する適合性が高く、細胞を三次元的に培養するバイオマテリアルとして機能することがわかっています。 また、細胞の機能を制御する生理活性ペプチドを組み込むことで、より高い機能を備えたペプチドゲルを創ることができ、試験管の中で臓器モデル(オルガノイド)を構築するための材料として活用が期待できます。 現在はペプチドゲル中でがん細胞を三次元培養することで、薬剤試験に有用ながん組織モデルを構築したり、がん細胞の悪性化のメカニズムを調べたりしています。
低分子医薬品に加え、近年、抗体医薬が実用化され、治療手段(モダリティ)が増えたことで医療環境は大きく進歩しています。新たなモダリティの開拓は医療の高度化に欠かせません。 近年、1000万種類を超えるペプチドライブラリから病因タンパク質に特異的な阻害ペプチドを探索するさまざまな技術が確立され、ペプチド医薬品が新たなモダリティとして注目されています。2018年にノーベル化学賞にもなったファージディスプレイ法はペプチド創薬の代表的な手法として広く利用されています。 私たちはファージディスプレイ法で構築したペプチドライブラリに低分子医薬品などの機能分子を化学修飾することで、従来よりも効率よく優れた阻害ペプチドを探索する手法を確立し、さまざまな病因タンパク質を標的としたペプチド医薬品開発を進めています。
ペプチドは低分子医薬品のように化学合成が可能であり、分子構造の最適化次第では抗体に匹敵する治療効果をもたせることもできます。一方、ペプチドを医薬品として実用化するためには、病因タンパク質に対する阻害活性・特異性を向上させ、生体内での安定性や生体適合性を付与するなど、改善が必要な点も数多くあります。 私たちは生体適合性をもつシリカや金のナノ粒子の表面に疾患関連タンパク質に結合するペプチドを多数集積することで、クラスター効果により結合活性や特異性が飛躍的に向上したナノ粒子型医薬品の開発に取り組んでいます。修飾ファージディスプレイ法で見出した阻害ペプチドを修飾したナノ粒子はそれ自体が病因タンパク質を阻害する医薬品として機能します。 また、がん細胞表面のタンパク質に結合するペプチドを修飾したナノ粒子上に低分子抗がん剤を搭載することで、がん細胞に抗がん剤を送達するドラッグデリバリーキャリアとして機能することが期待できます。